インフルエンザが流行するこの時期は、マスクを着けたり、口をしっかりと覆うなどの対処をしていたとしても、人前で思いっきりせきをするのは、なんとなく居心地が悪いと感じる人も多いでしょう。
ましてや新型コロナウイルスの影響もあり、今まで以上に外出時のせきに、心経をとがらせている人も少なくないと思います。
ウイルスとは関係のない持病のぜん息によるせきなのに、周りから白い目で見られたり、せきをしていることを注意されるような体験が、ニュースで話題にもなりました。
人間は、空気中の酸素を吸い込み、二酸化炭素を吐き出しながら呼吸をしています。
しかし、空気中に含まれるのは酸素だけではありません。
ましてや、空気中の酸素だけをピックアップして吸い込むことなどできません。
そのため、空気中のほこりや粉じん、花粉、ウイルス、排気ガスなど、様々な異物や有害物質を、呼吸によって無意識のうちに体内に取り込んでいます。
ただ、私たちの体には、このような空気中の不要物を体外に排出して、肺を守る機能が備わっています。
その一つが「せき」なのです。
空気を吸い込む口や鼻から肺へ通じる空気の通り道である気道に、異物が入り込むと、気道にあるセンサーがそれを感知します。
それが脳に伝わり、呼吸を司る筋肉に、せきをして異物を排出するよう指令が送られます。
また、異物の多くは気道壁から分泌された粘液に絡み取られます。
これがのどの方へと押し上げられて、せきで一気に「たん」として排出されることになります。
つまり、せきは体内に異物や有害物質が侵入してきた際に、それらを外に出そうとする、体の防衛反応の一つととらえることができます。
これは人間に備わっている重要な機能なので、誰にでも起こり得る現象です。
実際、大人も子供も、せきを一度もしたことがない人はいないはずです。
赤ちゃんですら、異物が入り込んだ時には、自然とせきが出るはずです。
それなのに、せきをする人を軽蔑したり、
せき=ウイルスと結びつけてしまうのは、
やはり間違った認識であるといえるでしょう。
周りの目を気にして、無理やりせきを封じ込めると、それこそ体に余計な負担がかかったり、排出するべき異物が体内に侵入するのを許してしまうことがあります。
もちろん「せきエチケット」として、マスクの着用や、できるだけ周囲の人に飛沫が飛ばないような配慮は必要です。
しかし、必要以上にせきを悪者扱いすることで、せきがしにくい世の中をつくり出してしまうのは、改めなければならない部分もあるでしょう。